地を這う魚

失踪日記」が出たのがもう6年前、2005年のこと。
これのヒットで吾妻ひでおは完全復活し、安定したポジションを得た。
本人はあいかわらず安定しない精神状態らしいけど。


失踪のヒット後、他社から出た便乗本がどれもひどい。
「うつうつ」は本当に単なる中年男の日記だし、「逃亡」は作者も
「漫画部分だけ立ち読みしてあとは買わなくてもいい」と言うくらい
堂々と便乗したインタビュー本。
ただし「失踪」で漫画っぽくデフォルメして描かれたエピソードが
実際はシビアで笑えないとか、そういう副読本としては面白い。


うつうつひでお日記その後」はこの中でも一番ひどい。
前作はまだ絵日記になってたけど、これは箇条書きというかメモ書きを
レイアウトもせず並べただけ。
便乗商法にも程がある。さすがに日記シリーズはここで終わりだろう。


失踪日記 うつうつひでお日記 (単行本コミックス) 逃亡日記 うつうつひでお日記 その後 (単行本コミックス)


そもそも吾妻ひでおの××日記といったら元祖は「不条理日記」だろう。
星雲賞を受賞した名作。
32年前に奇想天外社から出た単行本、18年ほど前に古本屋で入手した。


そして今日手に入れた「地を這う魚」、これも副題で「ひでおの青春日記」
と日記の名を付けられてる。
まだ諦めてなかったか角川め。
これが不条理日記の世界観で描かれてて面白い。
吾妻ひでおが漫画家の下積みしてた頃の話だが、不条理な世界で
独特の空気をかもし出してる。



藤子不二雄Aの「まんが道」、島本和彦の「アオイホノオ」、
小林まことの「青春少年マガジン1978〜1983」など、ベテランが
漫画家になるまでの話が好きだ。
吾妻ひでおにそのジャンルを描かせるとこうなってしまうのか。
回想モノにもこんな切り口があるんだな。


いい作品を買った。
そしてこのジャンルの作品を読むたびに思うのは、僕も20代の頃に
こういう挑戦をしておけばよかった。
実になるもならないも、経験を持つというのはそれ自体が財産だ。