怪獣使いと少年

以前から見たいと思ってた帰ってきたウルトラマンの33話、
怪獣使いと少年」を初めて見た。
昭和のウルトラシリーズはみんな見てたんだけど、帰りマンは
何度見ても序盤で見るのを断念してたので、33話あたりの話は
まったく見たことが無かった。
セブンとかに比べて華は無いし、出てくる大人はみんな怖いし。
でも大人になった今見ると、団次郎とか岸田森とか普通にかっこいいな。


少年が穴を掘っている。目的はわからない。
工業地帯の中の空き地の廃墟に住む少年は、宇宙人だと噂され
いじめに会い、街へ買物に行くと「あなたに物を売るとうちが
周囲からいろいろ言われる」とパン一枚すら売ってもらえない。


実は少年は傷ついた宇宙人をかくまってた。メイツ星人は善良な
宇宙人で、観測のために地球に来たところで帰れなくなり、
金山なる老人に姿を変えていた。
やがて市民たちが武器を持って集まり、少年を殺そうとする。
金山は少年を守るために飛び出してきて宇宙人であることを告白し、
逆上してる市民たちに虐殺される。


金山が死ぬと、その念動力で封印されてた怪獣ムルチが地中から
姿を現して暴れ始める。
だがウルトラマンである郷は戦おうとしない。
「勝手なことを言うな、怪獣を誘き出したのはあんたたちじゃないか」と、
市民たちの助けの声にも反発する。
そこへ現われた僧侶が「郷、街が大変なことになってるのだぞ」と諭し、
ようやく変身したウルトラマンがムルチを倒す。


金山老人が死に、再び天涯孤独となった少年はそれでも黙々と穴を掘り続ける。
地中にはメイツ星人の宇宙船が埋まってるのだ。
少年は地球にさよならを言うために穴を掘り続ける。




ウルトラシリーズ屈指の異色作と言われるこの作品、ストーリーだけでなく
演出も奇抜だ。
工業地帯の音や小田急線の踏切の音が街の不安定さを暗示し、哀しみの中で
ウルトラマンがムルチと戦うシーンには激しい雨が降りつける。
メイツ星人の地球上での偽名は金山。
これは明らかに在日朝鮮人通名を意識したネーミングだろう。
何も悪いこともせずひっそりと暮らしてた異邦人が、「善良なる市民たち」
によって迫害されて殺される。
それでも地球を守るために戦わねばならないウルトラマン
そして少年が変わらず穴を掘り続けるエンディング。


当時、TBS側から内容が子供向けではないと修正を求められ、結局監督と
脚本家が降ろされたという。
ウルトラシリーズの脚本家・上原正三金城哲夫は当事まだ本土復帰して
なかった沖縄出身で、「日本は沖縄を切り捨ててその犠牲の上で発展してる」
などと言われたことや、人種や部落差別などの問題をよく宇宙人の話に
置き換えたりして脚本にしてた。


今の時代にこういう話を書こうとしても、変にプロ市民臭くなっちゃって
無理だろうな。
昭和40年代特有のざわざわ感が妙に心に残る作品だ。